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INTERVIEW

科学の発展のための土台に自分もなれたなら2024.6

李 維遠(り いえん)次世代カロリメータ(大谷研究室)博士課程1年

どのような研究に取り組んでいますか?

私が今取り組んでいる研究テーマは、定食屋さんで言えば“全部ノセ”みたいな、夢のような検出器を作るというものです。加速器を使った実験で、粒子と粒子を衝突させたときに、そこで何が起こっていたのかを導き出すのが検出器です。私が開発に携わっているのはカロリメータという検出器で、衝突によって新たに発生した粒子がどれくらいのエネルギーをもつのかを測定するためのものです。現在は単にエネルギーそのものだけを測定しているのですが、粒子の位置と時間についても知ることができれば、これまで経験したことのない精度で現象を観測することができるのではないか。エネルギーに、位置の三次元、時間の一次元を加えた五次元の検出器、つまり“全部ノセ”の検出器というわけです。

この新しいカロリメータでは、二つの独立した検出器を交互に並べて、それぞれで位置を細かく測定します。同時に、二つのうち片方は時間も高精度で測定できることが期待されていて、私が担当しているのがそちらのチェレンコフ検出器と呼ばれるものです。これは荷電粒子が媒質中の光速を超える速度で入射した際に発生するチェレンコフ光を捉える検出器です。その特徴は、10ピコ秒(10のマイナス11乗秒)というきわめて高い精度の時間分解能が期待できるという点です。このご利益はざっくりこれまで静止画で見ていたものが、まるで動画のように見ることができるようになるというイメージで、より高度な解析が可能になります。

これまでにない検出器で目指すものは何ですか?

物理学の進歩というのは、理論側が仮説を立てて予測し、それを実験側が実証したり反証したりということの積み重ねで実現されていくものだと思います。そのため、実験家は必要なデータを取るために必要なものがなければ自分で作らなければなりませんし、それが測定精度であれば精度向上のための技術開発が求められます。今私が取り組んでいるカロリメータも、そういった大きな流れの中の一つというわけです。

この新しいカロリメータは、日本が建設に名乗りを上げているILC(国際リニアコライダー)や欧州のFCC(将来円形衝突型加速器)などの、次世代加速器での適用を目指していて、未来に向けたとても重要で基礎的な技術の開発だということが言えます。このカロリメータが新しい物理学の誕生に貢献してくれたならとても嬉しいですし、科学の発展のための土台に自分はなりたいと思っています。

実験の面白さとはどのようなところですか?

学部生の時には、理論家ってカッコいいなと思っていたのですが、カリキュラムのさまざまな物理学実験や物理学がここまで発展した歴史を知るにつれ、実験の面白さや重要性がわかってきました。いまだ存在しないツールを自分の手で開発し、それを実際に動かして生のデータを一番最初に見る。もしかするとまだ誰も見たことがない物理がそこに眠っているかもしれません。それって、とってもロマンチックなことだと思います。

研究を続けていると悩むこともありますが、やはり目指している大きなビジョンを思えばワクワクします。SFの世界は面白くてカッコいい!と感じるような子ども心を私はこの年齢になるまで持ち続けてきたように思いますし、その子ども心のようなものを追及できる環境にいられるということは、とても幸せなことなのじゃないかと。

物理学を志すきっかけは?

私は富山県で子ども時代を過ごしました。誰かが晴れた日の夜に空に瞬く光の点を指さして「あれは宇宙の遠い先にある星というものだよ」と教えてくれたときに、じゃあ、その宇宙のそのまた先には何があるんだろうっていう疑問が自然と浮かんできたことを覚えています。そんな原体験があって、もともと宇宙とか素粒子とかに興味がある子どもだったのですね。たまたま中学生の時に素粒子物理学を紹介するテレビドキュメンタリーを見たらとても面白くて、そこに登場する物理学者たちの営みに自分も参加したいなとあこがれたんです。それが物理学を志すきっかけでした。実は、大学に入って浅井祥仁先生(ICEPP前センター長)の授業を受けたとき、語り口になにか覚えがあるぞと思ったんです。調べてみたら、そのテレビドキュメンタリーの監修が浅井先生でした。ICEPPに入るための種は、僕が中学生の時にすでに蒔かれていたんですね(笑)。

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