次世代の素粒子研究で、新物理を探索する
どのような研究に取り組まれていますか?
ILC計画で、シミュレーションを用いた物理解析がメインです。それと並行して、ILCで実際に使う測定器の開発にも携わっています。
ILC実験は電子と陽電子を光速近くまで加速して衝突させて、ヒッグス粒子を大量につくり出します。ヒッグス粒子の性質を詳細に調べることで、従来の標準理論を超える新物理の姿を探ることが最大の目的です。そのためには、従来の衝突実験とは比べものにならないほど高精細な測定器の開発と、それに対応した物理解析手法の開発が求められます。特に、複数の粒子がある程度の指向性をもつ束になって観測される「ジェット」という現象を、精度よく測定・解析することが重要です。
ジェットの高精細測定には、ジェットに含まれる粒子の種類に応じて、最適な検出器でエネルギーおよび物理情報を測定するPFA(パーティクルフローアルゴリズム)という分析手法が用いられます。私はそれに加えて「キネマティック・フィット」という技術を解析に応用する研究を進めています。これは、測定された物理量を各種物理制約条件の下で補正・最適化する技術で、CERNのLHCの前身である加速器LEPで大活躍しました。これをILCの高精細な測定器にも応用し、最大限の測定精度を実現できるように、シミュレーションを用いて研究しています。
ICEPPに進まれた動機や、進学後の感想などを教えてください。
学部時代は東北大学で素粒子や原子核の勉強をしていて、次第に実験分野に興味を持つようになりました。当時は梶田先生のノーベル物理学賞受賞の影響でニュートリノ研究が非常にホットでしたが、将来性を見据えて「その次」を目指したいと思っていたところ、ILC計画のことを知りました。研究室の候補がいくつかあるなかで、ICEPPの山下研究室を知り、個人で研究テーマを持てることに魅力を感じて進学希望を出しました。
山下先生に最初に言われたのは「いろいろなことができる研究者になってほしい」ということです。当時の山下研のメンバーの研究内容は、中性子寿命の測定実験や電気双極子モーメントの測定、電子顕微鏡の開発などバリエーションが豊富でした。そして私も山下研で、中性子寿命の精密測定や光検出器の開発など、多様なテーマに関わる機会を得ました。そうした経験、特にハードウェアに対する理解やアプローチの仕方の経験は、ILCの電磁カロリメータの研究開発に加わった際にも大いに役立ちました。
電磁カロリメータ検出層プロトタイプの製作が行われたICEPP実験室にて。
ICEPPの魅力は何だと思いますか?
私の同期は、ATLAS、MEG、ILC、Tabletopと、全員まったく違う分野で研究しています。そのなかで、お互い歯に衣着せぬ議論ができるのが面白いです。
ILCの研究でも、国内外の他大学・研究機関との連携が、リモートの会議システムなどを含めて非常にスムーズに行なわれています。ICEPPの環境にいながら、他組織との議論が活発にできます。一方でICEPP、特に山下研では、研究テーマの選択肢の幅が広く、自分がやりたいテーマに挑戦できるのも大きな魅力です。