What’s On!

INTERVIEW

さまざまな強みを持つ仲間に恵まれている2023.06

山本 健介(やまもと けんすけ)MEG 実験(森研究室)博士課程2年

現在、スイスのPSI(ポールシェラー研究所)に出張中ですが、どんな研究をしているのですか?

今回が3度目の出張ですが、MEG II実験に使用するRDC(輻射崩壊同定用検出器)の開発に携わっています。MEG II実験では、ミューオンが陽電子とγ線に崩壊する現象(μ→eγ 崩壊)を探索していますが、その探索感度をあげるために重要なのがこのRDCなんです。ミューオンが陽電子とγ線に崩壊する事象を見つけたいわけですが、その際、γ線を伴うミューオンの崩壊(輻射崩壊)があって、これが背景事象のもととなるγ線となって実験感度が制限されてしまうんです。この輻射崩壊由来のγ線を同定できれば、背景事象を抑えてよりよい感度で探索できるようになります。それを可能にするのがRDCなんです。

2022年9月、CERNで開かれたRPC2022で成果発表

いわば余計なノイズを減らして、探している現象を見つけやすくするわけですね。

はい。加速器の検出部にミューオンビームが流れてくるのですが、その上流側と下流側の2カ所にこのRDCを置きます。私がいま担当しているのが上流側ですが、上流側は条件が厳しく、開発が難しいんです。ビームがRDCを突き抜ける必要があるので、ビームに影響を与えないようにしなくてはいけません。そのため、現在作製しているRDCでは、ダイヤモンド・ライク・カーボン(ダイヤモンドと黒鉛との中間に位置する素材)を50㎛の薄膜に吹きつけたものを電極に使います。そうすることで、物質量が抑えられてミューオンビームへの影響をとても少なくできるのですね。

完成はいつごろの予定ですか?

難しい質問ですね(笑)。いまPSIにいるのはこの開発中のRDCの性能を調べるのが一番の目的なのですが、試験がなかなかうまくいかなくて……。2024年までにはなんとか完成させたいと思っています。開発で大変だなと思うのは、やはり期待している性能が出ない時ですが、試行錯誤あっての面白さや手応えがありますし、研究は楽しいですね。これで締め切りさえ無ければなぁと思いながら、連日夜遅くまで共同研究者と作業したりしています。

PSIで神戸大学の共同研究者とRDC
(輻射崩壊同定用検出器)を開発

PSIという最先端の場所で研究に携わるというのはどんな気分ですか?

初めは、意外とコンパクトだなと思いました。でも、PSIに海外から幅広い分野の研究者が集まり、世界最先端の研究が行なわれていることをだんだん実感できて、自分も早くその一翼を担いたいと考えたのを覚えています。この検出器の開発自体も世界最先端レベルなので、それを自覚しながら研究を続けています。

MEG II実験でμ→eγ 崩壊が見つかったらどんな気持ちになるでしょうね。

標準理論を超える新しい物理の世界が開かれたことになりますので、自分が開発に携わった世界最高感度の検出器が役立ったとなれば、努力の賜物というか、「信じられない」と「嬉しい」が同じくらいあるんじゃないでしょうか。

素粒子に興味を持ったのはいつごろですか?

横浜国立大の学部生で研究室に入ったときです。その頃からICEPPを意識し、大学院進学ガイダンスで説明を聞いてからはMEG II実験に携わることが夢になりました。もともと、目に見える世界の元は何だろうと考えるような子どもで、小学生の時は新聞に掲載されていた元素周期表にものすごく興味を引かれました。話は少しそれますが、その頃の夢がもう一つあり、私は小学3年生からマーチングバンドでユーフォニウムという楽器を演奏していて、一度、海外でプレーヤーとして活動したかったんです。そこで大学を3年で卒業して東大の院試を受け、合格後の半年間、渡米しました。シカゴが本拠地のバンドのオーディションに受かり、米国のいろいろな場所で演奏しました。

二つある夢のうち一つをまずは叶えたわけですね。もう一つの夢、ICEPPはどうでしたか?

本当に恵まれた研究環境だと思います。私の人生の一番の自慢は、いい人たちに囲まれて生きてきたことで、今もそう確信しています。先生や先輩方は常に温かく見守ってくれるし、私が何かをたずねると一緒に考えてくれます。そんな中で自分の知識や研究スキルが高まっているのを強く感じています。

SHARE

CONTENTS