What’s On!

INTERVIEW

手厚い教育環境で、大きな成長を実感2021.05

田中 碧人(たなか あおと)ATLAS実験(石野研究室)博士課程1年

どんな研究をされていますか。

CERNのLHC-ATLAS実験に参加し、2027年から開始予定の「高輝度LHC」に向けた実験装置開発に携わっています。2021年1月時点で、CERNのLHCでは第3期実験(2022年開始予定)の準備が進んでおり、高輝度LHCはその先の第4期実験となります。高輝度LHCでは、現行LHCの設計値に対して5倍の輝度(ビーム中の粒子同士が衝突する頻度を表す値)を実現、標準理論を超える新物理が予言する新粒子を探索します。

高輝度LHCの運転開始に合わせて、ATLAS検出器は大部分を一新するアップグレードを行ないます。ATLAS検出器の一部であり、ミューオンを検出するTGC (Thin Gap Chamber)検出器でも、そのエレクトロニクスシステムを一新します。私はTGCフロントエンドエレクトロニクスの制御システムの開発に取り組んでいます。

LHCでは陽子同士を衝突させ、そこで生成された新粒子の崩壊によって生じるミューオンなどの粒子を検出することで、未知の粒子を探します。高輝度LHC-ATLAS実験では、TGCによって生成されるすべての信号が、FPGAという特殊な集積回路を新しく搭載した読み出しボードを経て、ATLASが設置されている実験室から60m以上離れた回路室に送られます。そこで、その衝突事象を記録するかどうかの「トリガー判定」が行なわれる仕組みです。

FPGAは、ユーザーによる内部のデジタル回路の書き換えが可能な集積回路です。一般的な書き換え作業やその後の試験は、ユーザーがFPGAの近くにパソコンを持って行き、短いケーブルを接続して行ないますが、読み出しボードのFPGAは物理的に近くまで立ち入れない位置に設置されています。そのため、遠隔で研究が行なえる制御システムが必要になります。これを実現するため、私はTGCの外周部に設置する新たな制御回路(JATHub)を開発し、遠隔でFPGAを書き換えることに成功しました。この制御技術を用いればCERNにあるエレクトロニクスを、日本からでも使えるようになります。

高エネルギー加速器研究機構(KEK)で実施したTGC検出器エレクトロニクス制御に向けた試作機統合試験。

ICEPP(本センターの略称)に進学された理由は?

中高生時代にジュネーブを訪れて、CERNを見学する機会がありました。巨大な装置を使い、どんなことをしているのかと素粒子実験に興味を持ちました。大学は慶應義塾大学理工学部物理学科に進学し、主に機械学習を学びましたが、素粒子実験への想いが断ち切れず、機械学習を活用してデータ解析の研究をしたいと思うようになりました。ICEPPの存在を知ったのは、東大の大学院ガイダンスがきっかけです。自分がかつて見学したCERNのLHC-ATLAS実験に、ICEPPが参画していることを知り、ICEPPへの進学を決めました。

ICEPPの印象はどうですか?

教育体制がとても手厚いです。指導教員の石野先生と、共同で研究を行なう奥村先生は、“実験を遂行する上で重要な意義のある課題を与える”という教育方針のもと、学生たちの現状の能力より少し上の課題を与え続け、学生を鍛えてくださいます。そのおかげで、修士の2年間で自分も大きく成長できたと実感しています。また、新型コロナ問題が発生する昨年3月までは、何度もCERNに行き、現場で経験豊富な人たちとやりとりしながら新しいスキルを習得し、大きな自信になりました。

石野研究室と奥村研究室は密接に連携していて、同期や後輩とも日々綿密な情報共有や活発な議論を行ない、互いに成長し合える環境となっています。ICEPPの他のプロジェクトでも、研究室の枠を超えた連携が日常的に行なわれており、研究の層の厚さを感じます。日々の研究では、大勢の人の前で研究成果を発表するスキルを磨く環境も用意されています。その成果として、昨年の日本物理学会秋季大会では、学生優秀発表賞を受賞できました。このようにICEPPは、非常に幅広い能力を習得できる素晴らしい環境だと感じています。

2020年日本物理学会秋季大会で学生優秀発表賞を受賞。

SHARE

CONTENTS