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INTERVIEW

歴史的な発見の現場に立ち会うことへの憧れ2023.06

古川 真林(ふるかわ まりん)ATLAS実験(田中研究室)博士課程1年

2022年は2回、125日間にわたりCERNに出張していますが、研究環境はどうですか?

初めてCERNに行ったときは、男性と女性の数が半々で、海外ではこんなに女性の研究者が活躍しているんだと驚いて、理系の女子が少ない日本のことがちょっと残念に思いました。高校生の頃から女性が科学の道に進んで研究者になるにはきっとたくさんの困難があるだろうと思っていたのですが、実際にICEPPに進学し、CERNに来てみると全然そんなことはなく、男性女性関係なく皆がのびのびと研究していらっしゃるので、気負わなくてもいいんだって気持ちになりました。皆で一つの目標に向かって協力し切磋琢磨していくという点においては、性別も国籍も関係ない世界なので、居心地の良さを感じました。

2022年10月、リスボンで開かれた
ATLAS Weekのカンファレンス

CERNではどういう研究に携わっているのですか?

LHC-ATLAS実験に携わっているのですが、そのATLAS検出器で使われる液体アルゴン(LAr)カロリーメーターのアップグレードを行なっています。LHC(Large Hadron Collider)という周⻑27kmの世界で一番大きい円形加速器の、ビームラインを粒子が飛んで来て衝突するところに設置されているのがATLAS検出器です。円筒形をしていて、その内側にあるのがLArカロリーメーターで、飛んでくる光子と電子のエネルギーを計測するものです。2022年7月から始まったRun3(第3期実験)でこのカロリーメーターに搭載されるトリガーの研究が私のメインテーマです。

トリガーというのはどんな働きをするのですか?

カロリーメーターにはセンサーが20万個ほど積まれているのですが、これを3万4千個程度の情報にまとめて、その一つ一つに入ってきた粒子のエネルギーとタイミングがどうだったかを計算して、それが欲しい大きさのエネルギーとタイミングだったら、「この情報を保存してください」という命令を発信するのがトリガーです。正確なたとえではありませんが、物理に詳しくない友だちには、ベルトコンベアーに流れてきたものを欲しいものと欲しくないものとに分けていくフルイの網目のようなものだって説明しています。このすべてのセンサーで正しいタイミングで正しいエネルギーが計算できるように調整して保証するのが私の仕事です。パラメーター調整と言ったら近いかもしれませんね。とても面倒くさいです(笑)。

ATLAS Weekにオンサイトで出席した研究者
(本人最前列中央付近)

素粒子の研究者になりたいと思うようになったきっかけは?

高校生の時から素粒子を研究したいと思っていて、ATLAS実験のこともその時に知りました。外国の人たちと一緒に研究ができるなんてとても面白そうで、私もATLAS実験に参加したいと思って最終的には大学3年生の時に決めました。実は、私は高校1年生の時に母を亡くし、父が家を切り盛りせざるを得なくて、父からは大学には行かないでくれと言われたんです。でも一方で、いつ何が起こるか分からないのだから、自分の今やりたいことを優先してもいいんじゃないかって気持ちも芽生えたんです。それで東京理科大学の理学部第二部という夜間学部に進学しました。夜間学部から行ける研究室に素粒子系がなかったので、素粒子は授業で勉強しました。ですから東大の院試に合格したときは、本当に嬉しかったです。ATLAS実験にも参加できて、高校生の時から見続けてきた夢が思ったよりとても早く叶ってしまいました。

これから実現してみたいことは何ですか?

CERNに滞在しているいろんな国の大学の人の中に、チームの中心となって皆をオーガナイズしている博士の学生さんがいるのですが、そういう存在になりたいなという気持ちがあります。そのためにももっとカロリーメーターのことを勉強して、チーム皆に信頼してもらえるように能力を磨きたいですね。また、指導教員の田中教授はLHCが運転し始めた時やヒッグス粒子が発見された時にその現場にいらしたということなのですが、そんな歴史的な場面に立ち会うことにとても憧れます。私も研究の場に残り続けて、いつかATLAS実験メンバーとして歴史的な発見に貢献したいと思っています。

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