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INTERVIEW

量子ビットを使って暗黒物質を探すことへの挑戦2024.6

渡邉 香凜(わたなべ かりん)量子研究(寺師研究室)修士課程2年

どのような研究に取り組んでいますか?

ひと言で言えば、私の研究テーマは“量子コンピュータに入っている素子を素粒子の探索にも使ってみよう”というものです。つまり、量子ビットを使った暗黒物質の探索です。暗黒物質の候補とされている素粒子はいろいろあるのですが、特に注目しているのがアクシオンとダークフォトンという質量が小さい粒子です。量子ビットには光方式やイオントラップ方式などいろいろあるのですが、中でも超伝導方式の量子ビットは、これらの軽い暗黒物質によって励起されるという理論があり、それを実際にやってみようということなのです。超伝導量子ビットは超優秀な電磁場センサーでもあるということなのですね。

超伝導量子ビットを使って、どのように暗黒物質を見つけるのでしょうか?

超伝導量子ビットというのは、絶対零度に近い超低温に冷却した超伝導回路を用いるものです。この量子ビットを金属キャビティという金属の箱に入れておきます。もしもそこに軽い暗黒物質がやって来たなら、金属キャビティを通過する際に光子が出ます。その光子が量子ビットに吸収されると、量子ビットのエネルギーが一番下の基底状態から一段上がった第一励起状態になるんです。励起しているかどうかは、金属キャビティの中にパルスを打ち込み、そのパルスの位相を調べることで知ることができます。言いかえれば、量子ビットの状態が0か1かがパルスの状態からわかるので、量子ビットが1であれば暗黒物質がやって来たとわかるというわけです。

研究は順調に進んでいますか?

現在は量子ビット自体の作成に取り組んでいる段階で、いまも作業をしていたところです。課題は二つあって、一つは量子ビットを安定的に量産できるようにすること。とにかくとても繊細なものなので、ちょっとしたことで“爆散”してしまうんです(笑)。たとえばジョセフソン接合といって、二つの超伝導体の間にアルミの薄い酸化膜を作るのですが、酸化時間を少し長く取りすぎると酸化が進みすぎて量子ビットが黒焦げになってしまったり……。最適化された作成法を確立して歩留まりを上げることを目指したいです。二つ目は、パルスの位相を見分ける精度を上げることです。そのためには、量子ビットの冷却がうまくいかないために起きる熱励起という現象を減らすことと、電気回路に入ってくるノイズが原因の読み取りエラーを無くすことです。

研究を進めるには、スイスへ出張が欠かせないと聞きました。

量子ビットの作成に必要な装置というのがあって、それがすべて揃っているのがスイスのEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)で、そこにはもう2回も行って作業をしてきましたが、今後も量子ビットを作りに何度も行くことになると思います。向こうでの仕事も楽しいですし、研究者たちとの交流も私は好きです。EPFLでは、その量子ビットは何に使うのって聞かれるので暗黒物質の探索ですと答えると、「そんなことできるんだ、面白いね」と驚かれたりします。CERN Summer Student Programmeの研修に行ったときにできた友だちにも話したら、とても興味を持ってもらえて嬉しかったですね。その友だち、今度の夏に日本にやって来るので、再会するのがとても楽しみです。私たち以外にこの方法に取り組んでいる人が世界にいるかどうかはわからないのですが、絶対にうまく行くはずだと信じて挑戦しています。卒業するまでに実際にアクシオンやダークフォトンの探索に入ることが今の私の夢です。

理系への進学を目指された理由は?

実は私の高校時代は演劇部一筋で、文系志望でした。でも、理系進学向けの授業を取っていたので、東大に理一で合格したあとに文学部に転身するつもりでした。それが予備校で勉強した物理学がとても面白くて、文学部は選択肢からなくなりました。物理学科に進学すると、まず統計物理に興味が湧きました。粒子がたくさん揃うと全体でどういう振る舞いになるかというのが人間みたいだなって。それが、浅井祥仁先生(前センター長)の素粒子や超ひも理論の話に感銘を受けたことで、素粒子物理学に強く引かれてしまったんです。

ICEPPの魅力はどこにあると思いますか?

素粒子物理学を研究したいのなら、ICEPPに来たほうがいいです。ICEPPでは同期と呼べる人がたくさんできますし、東大以外の出身の方も多いので多様な交流ができます。私自身、ICEPPに来て後悔したことは一度もないです。ずっとよかったと思っています(笑)。やっぱり楽しいですから、研究生活。

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