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INTERVIEW

新たな加速器実験を、つくりあげる喜び2019.07

劉 霊輝(Linghui Liu)ILC計画(大谷研究室)博士課程2年

研究内容を教えてください。

ILC計画の研究開発に携わっています。ILCでは、電子と陽電子を光速近くまで加速して衝突させ、それにより生じる物理現象を観測します。ILCでもっとも調べたいのはヒッグス粒子です。ヒッグス粒子は標準理論のなかで最後に発見された粒子で、その性質はまだよくわかっていません。標準理論は多くの物理現象を矛盾なく説明できる素晴らしい理論ですが、それだけでは説明できない事象も観測されています。ILCでヒッグス粒子の性質を精密に調べ、標準理論との「ずれ」を見つけることで、標準理論の先にある「新物理」の姿が見えてくると期待されています。

ILCでは、ILD(International Large Detector)とSiD(Silicon Detector)の2種類の測定器が建設されます。このうち、日欧の研究機関が中心となって開発しているのがILDです。高さ約16m、長さ約14 mのこの測定器には、粒子のエネルギーを測定する「カロリメータ」が搭載されます。カロリメータは、フォトンや電子、陽電子のエネルギーを測定する「電磁カロリメータ(ECAL)」、複合粒子であるハドロンのエネルギーを測定する「ハドロンカロリメータ(HCAL)」に分けられます。私はこれまでにない高性能なHCALの開発を、主な研究テーマとしています。

粒子のエネルギーを精度よく測定するには、粒子が測定器を通過した位置と時間を精密に特定する必要があります。そのためにHCALでは、30mm × 30mm のタイル状のプラスチックシンチレータを並べます。シンチレータとは、荷電粒子との相互作用で蛍光を発する物質のことです。粒子が持っていたエネルギーが光に変換され、光の量から元のエネルギー総量を計算することができます。

プラスチックシンチレータは、時間応答が早く発光量が大きいのが利点です。それを細かなタイル状にすることで、高い精度で粒子の位置と時間を測定することができます。一方、HCAL全体で800万枚ものシンチレータのタイルが必要になります。そのため、大量生産に適していて、かつ十分な発光量のあるプラスチック素材を選定することがまず重要でした。シンチレータの性能に影響を与えるタイルの配置についても検討し、HCALの検出層のデザインに指標を設けました。これら一連の研究で、HCALの開発に大きく貢献することができました。

ILD測定器に搭載予定のハドロンカロリメータの大型プロトタイプのビーム試験をCERNで実施。

ICEPPに進学された理由を教えてください。

直接のきっかけは、学部3年生のときにICEPPの大谷先生が開かれた素粒子実験のゼミに参加したことです。実は、小学生から高校生まで「理論」が好きで、机に向かってずっと計算をしていました。数学オリンピックに参加したこともあります。

一方で、実験に対する憧れも抱いていました。大学の物理実験や、大谷先生のゼミで素粒子実験の話を聞き、実験への興味が膨らんできました。ILCについて知ったのも、ゼミのなかでのことです。これから新しくつくる次世代の大型加速器に、自分が開発した装置が搭載されるかもしれない。そのことに大きな魅力を感じ、大谷先生のもとでILCの研究をしようと決めました。

実際に携わられての感想はいかがですか。

HCALの研究グループは、ドイツのハンブルグにあるDESY(ドイツ電子シンクロトロン研究所)を拠点にしています。日本とドイツを合わせて30~40人くらいのグループです。1年のうち2~3ケ月くらいドイツに行って性能試験を行ない、会議に出席します。

日々の研究で、自分でものをつくる面白さを味わっています。つくるのは実験装置のハードウェアだけではありません。自分がつくった解析用のソフトウェアが、きちんと動いて結果が出るのも達成感があります。

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