ニュートリノ振動の発見
「ニュートリノ振動」、ノーベル物理学賞受賞の本当の意義
2015年秋、本学宇宙線研究所所長の梶田隆章教授がノーベル物理学賞の栄冠に輝きました。受賞理由は、素粒子ニュートリノに質量があること示す「ニュートリノ振動」の発見です。物理学の「標準理論」では、ニュートリノは質量を持たない素粒子と考えられていましたが、当時の常識を超える発見は、21世紀の物理学が進むべき方向に大きな影響を与えました。
そもそもニュートリノ研究は、当センターの創設者である小柴昌俊先生が世界に先駆けて切り拓いてきた分野です。1983年に始まったカミオカンデ実験(岐阜県飛騨市神岡町)では、1987年に史上初めて、超新星爆発によるニュートリノの観測に成功したのを皮切りに、ニュートリノの実体に迫る数々の成果を挙げてきました。その成果のひとつが「大気ニュートリノ異常」の観測です。理論上では3種類が均等に存在するはずのニュートリノが、地球大気周辺では存在比のバランスが明らかに崩れている現象のことを指します。1986年に当センター助手となった梶田教授が、同年秋、小柴先生とともにこの事象に気づき、「ニュートリノ振動」の兆候と考えました。
カミオカンデは、巨大な水瓶に純粋度の極めて高い水(超純水)を満たし、水分子と素粒子の衝突によって生じる荷電粒子が引き起こす発光現象を捉える装置です。この「水チェレンコフ装置」は、カミオカンデの数々の成果から、ニュートリノ観測に極めて優れていることが明らかになり、ニュートリノのさらなる解明のため、観測性能を20倍以上に高めたスーパーカミオカンデが建設されました。その陣頭指揮を執ったのが、故人で当時宇宙線研究所所長であった戸塚洋二先生です。
1998年、梶田教授と戸塚先生は、スーパーカミオカンデで「ニュートリノ振動」の確かな証拠を掴みました。当時の常識を超える発見に、当初は懐疑的な声も聞かれましたが、その後の研究の進展により学術的意義が高く評価されるようになりました。「知の継承」が成し遂げた偉業であると、世界でも高く評価されています。当センターも、小柴先生の教えと情熱を継承し、世界の高エネルギー物理学において、大きな使命と役割を担っています。