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加地特任研究員が第25回(2023年度)高エネルギー物理学奨励賞を受賞

高エネルギー物理学を担う優秀な若手研究者の学位取得後の研究を奨励するために設けられたこの賞は、その研究者の優れた業績に対して授与するもので、今後さらにステップアップするための登竜門と言えます。
応募対象は、過去3年以内に学位を取得した応募者の学位論文とされており、選考委員会内で厳密な審議が重ねられた後に受賞者3名が確定します。特に、多くの研究者が参加する共同実験に基づく論文は若手研究者自身の寄与が本質的な評価基準となり、コラボレーションの中で主体的に研究し、いかに実力を発揮したかが問われます。
本センターの加地特任研究員は、早稲田大学寄田研究室に在籍していた学生時代のうち博士後期課程にLHC-ATLAS実験に従事し、Run2全データによる消失飛跡を用いた長寿命チャージーノ探索を進め、国際会議Moriond EWでこの研究をテーマとした成果発表の業績もあげています。

加地特任研究員

学術論文

Search for long-lived charginos based on a disappearing track signature in pp collisions at √s = 13 TeV with the full Run-2 ATLAS data
博士学位論文

受賞理由

超対称性粒子の探索は素粒子物理学の最重要課題の一つである。本論文は、暗黒物質の残存量の測定と未探索領域から支持される超対称性ウィーノ及びヒッグシーノLSPに着目して、LHCのATLAS実験で長寿命チャージーノの探索を行った。Run-2で取得した全データに対して、短い特殊飛跡(ピクセル飛跡)を用いる、通常とは異なる困難な解析を行った。取得データ量が増えたことに加え、消失飛跡の制限を緩めてアクセプタンスを広げる一方で、カロリメータの情報を用いてバックグラウンドを落とすなど、解析手法に新しいアイデアを取り入れ、求めるチャージーノ生成断面積のセンシティビティを以前の解析の5倍にした。チャージーノ崩壊に伴う消失飛跡は検出できなかったが、チャージーノ質量に対し、LSPが純粋ウィーノの場合660GeV/c2、LSPが純粋ヒッグシーノの場合210GeV/c2の下限値(95% CL)を与えた。また、信号を発見した後を想定したチャージーノ質量の再構成法の原理的な検証を行い、5事象の観測によって約100GeV/c2の質量決定精度をもつことを示した。この点は今後の探索に対する展望を与え、将来の検出器設計を行う上で重要である。以上を勘案し、本論文は高エネルギー物理学奨励賞に相応しいと判断した。 (選考委員会による受賞理由)

感想と今後の抱負

ヒッグス粒子発見によって標準模型の素粒子が出揃い、ひとつの指針を失った一方で、次に新粒子を発見すれば標準模型を超える新たな枠組み構築に繋がる大発見となる最も重要な時代です。新粒子の兆候が観測されない要因として衝突エネルギーやデータ統計量が足りていない可能性はありますが、新粒子は生成されているのに見逃してしまうという事態は最も避けなければなりません。そこで、従来の解析手法では捉えにくい様々な特徴を持つ長寿命粒子の探索が近年活発になってきました。特に長寿命チャージーノに関しては、将来加速器のための検出器設計案において消失飛跡探索のために飛跡検出器レイアウト変更の提案もされており、関心が高まっています。
本論文は今後の解析や検出器設計において参考となるインプットを提供できると思います。一方で、ここ数年で探索感度が大きく改善したように、衝突エネルギーの高さやデータの統計量以上に変化のある面白い探索領域です。また数年後には状況は変化していると思うので、今後の解析結果にも是非注目していきたいです。

関連リンク

高エネルギー物理学奨励賞(関連サイト)