野辺拓也特任助教が第17回日本物理学会若手奨励賞を受賞
高エネルギー物理学を担う優秀な若手研究者の学位取得後の研究を奨励するために設けられたこの賞は、その研究者の優れた業績に対して授与するもので、今後さらにステップアップするための登竜門と言えます。
応募対象は、40才未満の若手による学位取得後の業績で、過去3年以内脚注に学術雑誌に掲載された論文とされており、選考委員会内で厳密な審議が重ねられた後に受賞者が確定します。特に、多くの研究者が参加する共同実験に基づく論文は若手研究者自身の寄与が本質的な評価基準となり、コラボレーションの中で主体的に研究し、いかに実力を発揮したかが問われます。
本センターの野辺特任助教は、LHC-Run1実験が本格化した2009年の学生時代(大学院生博士前期課程)よりCERNに長期滞在し、ATLAS実験の全期間の研究を通して“標準理論を超える新物理の発見”を目指しています。2018年4月のATLAS日本物理解析グループ責任者に始まり、2020年10月のATLAS実験Jet/Etmissグループのサブコンビナー等、これまでに複数の重要なポジションに就き、研究・教育の両面で多くの実績をあげています。
学術論文
Search for charginos and neutralinos in final states with two boosted hadronically decaying bosons and missing transverse momentum in pp collisions at √s = 13 TeV with the ATLAS detector
Phys. Rev. D 104, 112010 (2021)
受賞理由
超対称粒子のうち、電弱ゲージボソンとヒッグスのパートナーであるチャージノ・ニュートラリノは強い相互作用をしないため、LHCからの既存の制限は比較的ゆるい状況である。これらチャージノ・ニュートラリノの質量スペクトルは、U(1) ゲージノ、SU(2) ゲージノ、ヒッグシーノをそれぞれ主成分とするグループに分かれ、それらグループの間でカスケード的に崩壊が起こる。本論文では、チャージノ・ニュートラリノのうち、より重いものが対生成され、軽いものと W, Z, H ボソンに崩壊する過程を総合的に探索した。高い運動量を持つ W, Z, H の崩壊においては、最大の分岐比をもつクォーク対は、サブジェット構造のあるハドロンジェットに転化する。申請者は「ブーストされたボソンタギング」の手法を発展させてこれを効率的に検出することを可能にし、ATLASのLHC Run2 のデータに適用して、従来レプトン終状態を用いて得られていた制限を劇的に改善する制限を得た論文では、多くの場合分けを必要とするこの解析がよく整理されてまとめられている。申請者はこの解析で主要な役割を果たし、当該年のATLASの新物理探索における重要な成果の一つとなった。(選考委員会による受賞理由)
感想と今後の抱負
今回受賞した論文は、LHC-ATLAS実験Run2においてハドロンジェットの内部構造を用いた「boosted W/Z/h tagging」技術を初めて適用した超対称性粒子探索結果です。私はこのboosted W/Z/h taggingの性能向上と、データを用いたキャリブレーションをATLASグループ内のリーダーとして推進してきました。この新しい技術によりこれまで難しかったパラメータ領域で大きく感度を伸ばすことに成功しました。
探索結果は、ダークマターなど他の実験事実との整合性を念頭に選んだ様々な超対称性模型で解釈し、その多くに強い制限を与えました。超対称性粒子がLHCで手の届くTeVスケール以下に潜んでいるのならば、かなりコーナーに追い詰めてきました。
LHCは2022年からRun3実験を開始したばかりです。今後もあらゆる信号の可能性を徹底的に検証し、新物理の扉を開くピリオドにしたいと思っています。
*本論文は、ICEPPの陳詩遠特任助教(当時、ペンシルバニア大学PD)とKEKの岡崎佑太研究員(当時、京都大学博士後期課程大学院生)と一緒に苦労して書き上げました。彼らの仕事にも賛辞が送られますよう。
関連リンク
日本物理学会若手奨励賞(関連サイト)