ニュース

物理データ取得に向けたカウントダウン: ATLAS実験における“ビームスプラッシュ”

ATLAS検出器は LHC Run3最初のビームスプラッシュイベントを記録しました。

3年以上にわたる加速器のアップグレードとメンテナンスを終えて、陽子ビームがLHCに戻ってきました! 2022年4月22日(金)にLHCの第3期運転(Run3)が始まり、今後、記録的な数の陽子衝突事象がATLAS検出器で観測されることでしょう。
今のところ、物理解析のためのデータ収集は始まっていません。LHCのオペレーターは、最初に加速器を再稼働させ、その後ビームのエネルギーと強度を安全に上げていきます。物理解析データを取得するための最初の衝突は今年の夏、衝突エネルギー13.6TeVという過去最高のエネルギーで行なわれる予定です。それまでの間、ATLAS実験は「ビームスプラッシュ」の季節を過ごします。
ビームスプラッシュとは、LHCによって生成される最初で最も単純な粒子衝突事象のことです。ひとつの陽子ビームの塊を、ATLAS検出器の直前に配置されたビームコリメーターに衝突させることで発生します。海岸に打ち寄せる大波のように、大量の粒子の束(主にミューオンとハドロンが含まれる)が前方の検出器に吹付けられます。このスプラッシュは、多数の検出器の動作テストや、そのエレクトロニクスとLHCクロックとの時間同期をチェックするために使用されます。
今日、LHC加速器はATLASとCMSの両実験にビームスプラッシュを供給するための専用ランを行ないました。ATLASは4月22日(金)、最初の“パラサイト”ビームスプラッシュを見ましたが、今日のスプラッシュではより詳細な検出器のコミッショニングを行なえました。

ATLAS実験が記録した2つのビームスプラッシュイベント
2022年4月28日(木)にATLAS実験が記録した2つのビームスプラッシュイベントを示します。左側の図は、左側から右側に向かってATLAS検出器に入射した粒子のスプレーが移動している様子を示しています。右側の図は、逆方向(右側から左側)に向かって移動している様子を示しています。
左上の図はATLAS検出器を輪切りにした様子、右上の図はATLASのカロリメーターで観測したエネルギーの様子を示しています。下側の図はATLASの側面図です。検出器の中心から外側に向かって、TRT検出器、電磁カロリメーター、ハドロンカロリメーター、ミューオン検出器で測定されたデータが描かれています。このデータは、ATLASのAサイド(左側のイベント)とCサイド(右側のイベント)の電磁カロリメーターで記録されたエネルギー情報を利用して、閾値ベースのデータフィルター(トリガー)を用いて記録しました。

ATLASに打ち込まれたビームは波のように、実験室の片側に先に到達し、反対側へ移動します。このわずかなタイミングの違いがATLAS検出器の調整に重要なので、28日(木)のビームスプラッシュは検出器の両側(AサイドとCサイド)から行ないました。
以下に示されているイベントディスプレイは、ATLAS実験の特殊な姿を表しています。物理解析で使われるデータとは異なり、これらのイベント事象は実験のあらゆる検出器が同時に「ライトアップ」されています。研究者たちは、これらのイベントを詳細に調べることで、各検出器の動作状況を即座に把握し、取得データの妥当性を確認できます。これは本格的なデータ収集に向けた重要なステップであり、ATLASがこの夏、初の物理衝突事象を記録するための大切なマイルストーンです。待ち時間はもうすぐ終わりです!

ポイント1_LHCトンネル
2022年4月22日(金)にATLAS実験が記録した最初のRun3ビームスプラッシュイベントのひとつ。このイベントは、粒子のスプレーが写真の左側(Cサイド)からATLASに入り、右側(Aサイド)に向かって移動したものです。検出器の中心から外側に向かって、TRT検出器(赤と白)、電磁カロリメーター(緑色)、ハドロンカロリメーター(黄色)それぞれ記録したデータが表示されています。このイベントは、検出器のAサイドにある電磁カロリメーターが測定したエネルギー情報を利用して、閾値ベースのフィルター(トリガー)を用いて記録しました。

ATLAS発表関連

ATLAS Experimentのウェブサイト(記事原文):
News: Countdown to physics: Beams splash in the ATLAS experiment