国際的で中立的な量子プラットフォームに向けた議論が高まる
センター主催による量子技術研究コミュニティの国際ワークショップを初開催
素粒子物理国際研究センターは3月9日(水)、10日(木)の2日間にわたり、量子コンピュータや量子センサーの基礎科学への応用と量子デバイス開発を議論するための国際ワークショップ「Physics Frontiers with Quantum Science and Technology」を開催しました。
本ワークショップは、量子科学と素粒子・原子核・宇宙・物性物理の研究者を中心に、日本・米国・欧州の3極を繋ぐ形で行なわれました。日本・米国・ドイツ・スイスなど世界12カ国から130名を超える参加申込登録があり、タイムゾーンの関係から「米国-日本」と「欧州-日本」の2つのブロックに接続時間帯を分けて、ハイブリッド形式で実施しました。新型コロナウイルスによる渡航制限を考慮して海外からの登壇者は全てオンライン参加となりましたが、国内研究者の一部は東京大学小柴ホールに集まり、現地会場から参加しました。
本センターは素粒子物理研究のフロンティアを走る国際共同研究機関として、LHC-ATLAS実験やMEG実験等の複数の共同研究プロジェクトを進めていますが、2021年度からは量子科学と人工知能(AI)の研究を推進するため「量子AIテクノロジー研究分野」を新たに発足させました。第一回ワークショップは量子AI研究立ち上げ後のひとつのマイルストーンとして企画したもので、理論・実験の第一線で研究を進める国内外の研究者が集まり、量子技術の開発と基礎物理への応用について議論を行ないました。
ワークショップ冒頭の挨拶で、浅井祥仁・素粒子物理国際研究センター長は量子コンピュータの進展と量子センサー技術の可能性に触れながら、「CERNをはじめとする国際共同研究の新たな展開として、素粒子物理学への量子技術の応用を進めていく。」と述べ、「量子技術によって基礎科学にいかに新しい知見を生み出していくことができるか、このワークショップを通して新しいアイデアやヒントを得て欲しい。」と呼びかけ、人類と社会の未来を形作る量子研究を世界的な枠組みで進めることの重要性を強く訴えました。
続くワークショップでは、超伝導量子コンピュータやイオントラップ量子コンピュータの研究開発状況、格子欠陥を用いたダイヤモンドセンサーの製作技術と精密測定など、量子ハードウェアの最新の研究成果から、超伝導量子ビットを用いた暗黒物質探索や原子干渉計での重力波探索、量子マテリアル開発、加速器空洞の量子技術への応用、時空(宇宙)と量子情報の関連など、幅広いテーマについて発表・議論が行なわれました。また、CERN・DESY・LBNLでの量子研究への取り組みや、素粒子物理シミュレーションや実験データ解析への応用についてもさまざまな報告がありました。
本ワークショップは、来年度以降も引き続き計画していく予定です。特に、量子ハードウェアや量子機械学習アルゴリズムの研究、新粒子探索への応用など、特定の研究テーマにフォーカスしたワークショップを計画しています。各研究テーマを深く掘り下げながら、国際共同研究をさらに広く展開していきます。