「世界の一番高いエネルギーの
加速器があるところに行って
実験しようよ」
1972年、東京大学に、当面日本ではできない実験的研究を、国外の加速器で行うことを目指す研究グループが誕生。小柴教授を中心に、西ドイツの電子・陽電子コライダーDORISを用いた実験計画が立案され、日本が初めて「素粒子物理学の国際共同実験」に進出しました。
これは、当時はまだ良く理解されていなかった「電子・陽電子コライダー実験が、新粒子の発見および精密測定の両方に適している」ことを見抜いていたという意味で、パイオニア的な実験計画でした。
1974年、その推進拠点としてICEPPの前身である「東京大学理学部附属高エネルギー物理学実験施設」が創設されます。
以来50年、日本の素粒子物理学をリードすべく、
ICEPPは数多くの国際共同研究に取り組んできました。
ICEPP's greatest
achievements for 50 years
-Science without Borders-
日本とDESY
ドイツ電子シンクロトロン(Deutsches Elektronen-Synchrotron、略称DESY)は、ドイツ連邦共和国の公的な研究機関であり、1959年12月にハンブルグ市に創立された。その後1992年1月の統合により、ブランデンブルグ州のツォイテンにも研究所を構える。自然科学領域の基礎科学を遂行し、特に物質の根源を探る素粒子物理学と、放射光を利用した物性科学・化学・分子生物学・地球物理学・薬学の2つに重点を置く。
いずれも加速器利用を中心とした研究を主とし、加速器科学はDESYを支える重要な基盤となっている。
DESYで建設中のDORIS加速器(周長289m、衝突エネルギー4.45GeV)を用いる実験計画DASP(Double Arm SPectrometer)を提案
DASPの東大グループの本拠地として「理学部附属高エネルギー物理学実験施設」を創設
DESYはより大型なPETRA加速器(周長2.3km・衝突エネルギー19GeV)の建設に着手し、東大グループは次なるJADE(JApan, Deutschland, England)実験を提案
JADEは7年の事業として認められ、東大グループは「理学部附属素粒子物理学国際協力施設」として生まれ変わる
JADEを開始し、グルーオンの発見(1995年 JADE実験グループとして欧州物理学会特別賞)、新粒子探索などの目ざましい成果をあげた
日本とCERN
CERNは1952年にできた前身組織Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaireの頭文字をとったもので、1954年10月に欧州合同原子核研究機構(European Organization for Nuclear Research)として、スイスとフランスの国境を跨いだジュネーヴ市郊外に創立された。
素粒子物理学における世界最高水準の国際的な拠点であり、質量の起源や宇宙誕生の謎に迫る研究のために、世界最高エネルギーを誇る加速器や巨大な検出器、そしてコンピューティング基盤が備えられている。
現代社会のインフラを支えるインターネットのウェブ技術WWWの発祥の地としても有名である。
さらにエネルギーの高いコライダー実験を行うために本拠地をCERNに移し、LEP加速器(周長27km・衝突エネルギー100GeV)でのOPAL(Omni Purpose Apparatus for LEP)実験を提案
東大グループは「理学部附属素粒子物理国際センター」として生まれ変わり、 9カ国34機関からなるOPAL実験の検出器開発に挑む
OPALを開始し、素粒子の世代数を3と決定づけ、超称性大統一理論も示唆した
ATLAS(A Troidal LHC ApparatuS)コラボレーションが発足
創立20年目で「素粒子物理国際センター」に生まれ変わる、CERNはLHCの二段階建設を承認、ATLAS日本グループが発足、Technical Proposalを提出
CERN非加盟国の中では日本が最も早くLHC計画への参加協力を表明。6月23日には与謝野馨文部大臣がCERN理事会に出席し、LHC建設協力を発表
衝突エネルギーを2倍に高めたLEP-IIを開始し、2000年の運転終了までにヒッグス粒子の探索、超対称性粒子の探索、WW生成断面積の測定に代表されるLHCに続く重要な成果を多く創出
日本をはじめとする非加盟国の協力表明をうけて、LHCの建設計画を改め、一段階の建設計画を承認
ATLAS検出器建設を公式承認、この年に最初の技術設計書(TDR)が承認され、計17巻のTDRが準備された
国立大学の法人化により「素粒子物理国際研究センター」に生まれ変わる
CERNとのWLCG覚書に基づき、ATLAS地域解析センターを東京大学に設置
国際的に接続されたLHCコンピューティンググリッドの一翼を担う
LHC加速器、衝突エネルギー7TeVで第1期運転を開始、ATLAS実験が本格始動
LHC8TeVに増強し、7月ヒッグス粒子を発見
LHC加速器、衝突エネルギー13TeVで第2期運転を開始
ATLASで過去最高の約1.5京回の陽子陽子衝突に相当する大統計データを取得
LHC加速器、衝突エネルギー13.6TeVで第3期運転を開始
日本とPSI
ポールシェラー研究所(Paul Scherrer Institute、略称PSI)は、スイス連邦工科大学(ETH)のドメインの一部で、スイス最大かつ最先端の研究機関として、物理、化学、生命科学といった基礎科学から原子力、エネルギー、環境、医薬品分野などの幅広い応用研究を実施している。
これらの研究を行うために世界最大強度のミュー粒子ビームを生み出す大型の陽子加速器(サイクロトロン)などの独自の施設を保有している。将来には、PSIでミュー粒子ビーム強度をさらに100倍増強する計画(HIMB計画)が進行中であり、2027~2028年にその完成が予定されている。
PSIにMEG実験計画書を提出、承認
μ→eγ崩壊を探索するMEG実験開始
PSIにアップグレードしたMEG II実験計画書を提出、翌年承認
観測感度をもう1桁高めたアップグレードしたMEG II実験開始
Center for Elementary
Particle Physics)
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DESY(Deutsches
Electron-
Synchrotron) -
CERN(European
Organization
for Nuclear Research) -
PSI(Paul Scherrer
Institut)
これからの50年を歩む
皆さんへ
センター長石野 雅也
学問の流れを正しく捉えることができれば、50年後の姿は想像できる。しかしながら、革新的な技術や予想外の発見にトリガーされて発生/発展する姿は予言できない。
でも、そんなことが起きるかもしれない。50年とは、そんなタイムスケールですね。
だから、日々の研究で得られる小刻みの「理解/発見」にこだわり、これを存分に楽しむ「近い目線」と、学問の流れを捉える「遠い目線」、2つの視座を共存させ、両方をアップデートしていくのが王道なんだと思います。
あなた自身の「遠近」両目線と、少しのラッキーを掴んで、実り多い50年を歩んでいきましょう!