History of ICEPP

東京大学 THE UNIVERSITY OF TOKYO

ICEPP 素粒子物理国際研究センター International Center for Elementary Particle Physics

The MEG Experiment at PSIPSIにおけるMEG実験

MEG(Mu-E-Gamma)実験とは、電子の仲間であるミュー粒子(ミューオン)がガンマ線を放出しながら電子に崩壊する現象「μ→eγ崩壊」を観測するための国際研究プロジェクトです。本センターの研究者が中心となってスイス・ポールシェラー研究所(PSI)に実験を提案し、その重要性を認識したロシア・スイス・イタリア・アメリカの研究グループとともに、国際チームを組んで研究を始めました。MEG実験では、宇宙開闢の謎を解く超対称大統一理論に迫ります。

Proposal to Examine Grand Unified Theories大統一理論を検証する実験の提案

宇宙はビッグバンという高温・高密度の「素粒子のスープ」から誕生しましたが、その開闢期には素粒子は一種類しかなく、クォークや電子・ニュートリノなどの区別がなかったと考えられています。これが「大統一理論」です。1990年代半ばに発見されたトップクォークが予想以上に重かったことから、大統一理論が本当に正しいとすると、絶対に起こらないと思われていたミュー粒子の「μ→eγ崩壊」が、測定可能な頻度で起こることがわかりました。MEG実験は、この大統一理論が引き起こす「μ→eγ崩壊」を観測できると考えられる唯一の実験です。

©MEG Collaboration

Preparing to Catch μ→eγ decaysμ→eγ崩壊を捕らえる戦略

μ→eγ崩壊を捕らえるには、静止しているミュー粒子から、電子とガンマ線がそれぞれミュー粒子質量のちょうど半分のエネルギーを持って反対方向へ同時に飛び出す事象を探します。超対称大統一理論が予測するμ→eγ崩壊が起こる確率は1兆~数十兆に一つであり、まさしく干し草の山の中から針を探すような作業となります。このためMEG実験では、「PSIの大強度直流ミュー粒子ビーム」、「COBRA陽電子スペクトロメータ」、「液体キセノンガンマ線測定器」という3つの卓越した技術によって、間違いなく確実にμ→eγ崩壊を捕らえる戦略を取りました。

©MEG Collaboration

Looking for a Hint of Grand UnificationMEG実験の実施

MEG実験グループはPSIへの実験提案から9年の歳月をかけて装置の開発・建設、準備研究を行ない、ついに前人未踏の領域へ挑戦するスタートラインに立ちました。大統一理論の実証は、自然の森羅万象を1つの物理法則で説明したいと願った「アインシュタインの夢」であり、その夢への第一歩が始まりました。

©MEG Collaboration

Getting Ready for MEG II観測感度を一桁上げ究極のMEG II実験へ

MEG II実験へのアップグレードの鍵は、PSIで得られる大量のミュー粒子を余すことなく使って測定する、というところにあります。MEG実験では、測定器の性能に制限されて毎秒1億近いバックグラウンドの陽電子に対応することができず、ミュー粒子ビームの強度を抑えて実験を行なっていました。MEG II実験では、測定器の性能を格段に上げることができたおかげで、ビーム強度を抑えることなくすべてのミュー粒子を測定します。PSIのビーム強度を超える加速器はどこにも存在しないので、これによりMEG II実験は、現存の加速器を使ったものとしては究極の実験ということになります。

©MEG Collaboration

MEG実験の未来

ミュー粒子は「第2世代」の電子であり、電子とは違う「フレーバー」を持つものとされています。しかしながら、素粒子の「世代」や「フレーバー」については、何もよくわかっていません。そもそも、どうして素粒子は3世代あるのか、誰も知らないのです。ただ、我々の宇宙がこのように複雑で豊かなのは、これら3世代の素粒子が一見秩序なく絡まっているおかげなのは確かです。素粒子の標準模型は秩序正しいゲージ対称性に基づいた理論ですが、その美しい対称性を壊したヒッグス粒子のおかげで、このような複雑で豊かな宇宙が生まれたのです。
一方で、そのよくわかっていないフレーバーの実験研究から、新物理のヒントが得られたことがこれまでに何度かありました。例えば、フレーバーを変える中性カレントの不在からチャームクォークの存在が予言され、中性K中間子で発見されたCPの破れから、小林・益川両氏はクォークが3世代存在する仮設を立てました。また中性B中間子で観測された予想外に大きな粒子・反粒子間の混合は、トップクォークが非常に重いことを予言しました。さらに、ニュートリノ振動現象から得られたニュートリノの質量が他の素粒子に比べて異常に軽いのも、超高エネルギーに存在する新物理のヒントかもしれません。
次に素粒子物理学に起こる大きな革命的発展は、そのようなヒント、例えばμ→eγ崩壊の発見のようなものから始まるかもしれません。MEG II実験の今後の進展にご期待ください。