Message
センター長メッセージ
素粒子物理学を
志す君たちへ
半世紀の歴史を持つICEPPは、素粒子物理学の最先端における“世界のど真ん中”で活躍を続けてきた研究機関です。CERN(欧州合同原子核研究機構)の巨大加速器LEP/LHCを用いた数々の国際共同実験の現場で、ICEPPは測定器の開発から物理結果の導出までのあらゆる局面で、多大な貢献をしてきました。2012年のヒッグス粒子発見においても、中心的な役割を果たしました。
このヒッグス粒子発見を節目として、素粒子物理学は新たなフェーズに突入しました。ヒッグス場は素粒子の質量を決定しますが、「なぜ粒子の種類を見分けられるのか?」「ヒッグス粒子の種類は1つだけか?」など、多くの謎があります。また、相互作用の統一、ダークマターの正体、粒子/反粒子の非対称性が生じた機構など、素粒子の標準模型では解決できない多くの課題を解明することで、宇宙進化の完全理解へと進んでいけるはずです。
そんな未知の領域を探るために、高輝度LHC(High-Luminosity Large Hadron Collider)という現行のLHCの性能を大幅に上回る加速器が2029年から稼動します。また、その先を見据えて、ヒッグス粒子の精密測定によって未知領域を探索するヒッグスファクトリー、例えばILC(国際リニアコライダー)の建設を目指して準備研究を進めています。これらのプロジェクトによって、人類が新たな「知」を得られるように願っています。
私たちは、量子計算機・量子センサーの応用にも注力しています。素粒子の現象は量子現象そのものであり、量子計算機をこれに応用するのはごく自然な発想だと思います。この応用が実現すれば、それは素粒子物理学の発展に直結します。歴史を振り返ると、新しいデバイスとともに新しいサイエンスが生まれてきました。量子センサーの研究に取り組むことで、私たちはそんな大きな可能性を秘めた挑戦をしています。
2017年からの2年間、私はCERNのATLAS実験における測定器運転の最高責任者をつとめました。世界中から集まった研究者が文化や言葉の垣根を越え、科学の成果という共通のゴールを目指して一丸となる経験をしたことで、国際共同実験の面白さを心の底から感じました。素粒子・宇宙の真の姿を知りたいと感じたならば、ぜひ、一緒に実験をしましょう。
ICEPPの先輩たちが開拓してきた土台を利用するのもアリだし、あなたが独自の道を開拓するのもアリです。好きなサブジェクトを追いかけてください。きっと、面白いはずです。
東京大学素粒子物理国際研究センター長
石野 雅也