小さい頃はケーキ屋さんになりたかったのですが、身の回りの現象に対してなぜそれが起こるのかを考えたり調べたりすることも好きな子どもで、高校生の時に物理の道に進もうと自然に思うようになりました。お菓子作りはいまも大好きで、新しいレシピを見つけては作っていますよ。
学部生3年の時に高エネルギー加速器研究機構(KEK)の「サマーチャレンジ」というプログラムに参加しました。そこで素粒子のチームに入って光子の二重スリット実験に挑戦したんです。光が波の性質を持つことをどうやって証明するか、実験をどうやって進めるかなど、チーム皆で話し合って実験を組んでいくところがとても面白かったのですね。それがきっかけで素粒子の分野に進もうと思うようになりました。
ICEPPに進学したのは、大学院進学説明会でMEG実験のことを知って面白そうだなと思ったからです。すると修士課程の1年目でいきなり、7月にスイスのポールシェラー研究所(PSI)に行ってくださいと言われて、とても驚きましたが、一方で「ヤッター!!」って思いました。とはいえ、9月の物理学会に発表する内容を仕上げて帰って来いというとてもハードな出張だったのですが、楽しみのほうが勝りました。それ以後、半年に1回、1ヶ月程度日本に帰るというサイクルでMEG実験に携わってきました。
最初に任されたのが、液体キセノン γ線検出器の時間較正用カウンターの研究開発です。この研究ではまず、プラスチックシンチレータと 36個の シリコン光検出器(SiPM)からなるプロトタイプを作成し、実機試験を行ないました。手作り感満載の基盤を作って、同軸ケーブルの被覆を剝いてそこに挿したりしてたのでノイズが乗りやすく、まともなデータが取れなくて悪戦苦闘しました。22歳の時でしたが、実験がうまくいかなくて大変でも、どうやってそれを解決するかを考えて改良していくというプロセスが、とても楽しかったですね。
その後は、MEG II実験で使う、γ線検出器の時間較正に使用するタイミングカウンターの研究開発や、背景事象を同定するための輻射崩壊同定用カウンターの性能評価などに携わってきました。いい思い出ばかりですが、PSIでの夜のシフトは眠くてきつかったですね。24時間三交代制で皆で頑張って、できるだけたくさんのデータを取ろうとするのですが、夜の11時から翌朝までのシフトだと最後には頭がガックンガックンして「寝ちゃダメだ」と自分に言い聞かせていました。
卒業後、矢崎総業株式会社に就職して、いまはAI・デジタル室でロボットの研究をしています。素粒子と関係ないように思うかもしれませんが、機械学習を用いて素粒子実験のデータ解析をする研究も行なっていたので、その経験を活かしたいと考えて、こちらに進みました。まだ1年目ですが、AIを搭載して自分で考えて走行できるロボットを作ることを目指して頑張っています。
MEG II実験は今でも気になります。聞くところによると、私が作ったものも性能通りに動いているようなので、うまくいきますようにと祈っています。(談)
プロフィール
2019年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(大谷研究室)修士課程修了。2022年同博士課程修了、博士(理学)。同年より矢崎総業株式会社に就職、AI・デジタル室に勤務。
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あらゆる手段を使って
新しい理論の姿を見つけたい高エネルギー加速器研究機構(KEK)
素粒子原子核研究所・准教授生出 秀行Hideyuki Oide -
スタートアップ企業で
働くいまも生きているICEPPでの経験京都フュージョニアリング株式会社・
Business Development Dept. マネージャー西村美紀Miki Nishimura -
MEG実験での悪戦苦闘すらも
とても楽しい経験でした矢崎総業株式会社
AI・デジタル室 エンジニア恩田 理奈Rina Onda -
ヒッグス粒子発見に貢献し
その瞬間に立ち会うという幸福名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)
特任准教授吉原 圭亮Keisuke Yoshihara -
設計・測定・解析・理論計算
すべてを自分で行なう楽しみ日本電気株式会社(NEC)
セキュアシステムプラットフォーム研究所 主任山道 智博Tomohiro Yamaji -
自分の貢献やアイデアを活かして
問題解決する喜びは、ICEPPで知った高エネルギー加速器研究機構(KEK)
加速器施設 助教小林 愛音Aine Kobayashi -
「大事だと思ったことをきちんとやる」
その大切さをICEPPで学んだ東京エレクトロン株式会社SDC
AI開発部・サイエンティスト小坂井 千紘Chihiro Kozakai -
素粒子実験で培ったメンタリティで、
AIプロダクトの開発に挑む株式会社ニューラルポケット
取締役CTO(最高技術責任者)佐々木 雄一Yuichi Sasaki -
大学院での学びを
企業で活かす日本電信電話株式会社 (NTT R&D)
サービスエボリューション研究所 研究員大川 真耶Maya Okawa -
「机の上」での実験が、
研究者としての土台になった京都大学大学院理学研究科
日本学術振興会特別研究員(PD)安達 俊介Shunsuke Adachi -
「ヒッグスの次」を
この手で見つけたい東京工業大学理学院物理学系 助教山口 洋平Yohei Yamaguchi