私の出身高校では理科・社会の全科目が必修で、物理もそのひとつとして学びました。高校で学ぶ物理は運動方程式や重力の方程式など、非常に基礎的で単純です。でも単純な数式で、世界のさまざまな現象を記述できる。その素晴らしさに感動したのが、物理に魅了されたきっかけでした。
東大理科Ⅰ類に入学後は、物理に限らず幅広く勉強しました。また物理学科に進学後も、3年次には宇宙物理のゼミに参加するなど、その時々で最も面白いと思うことに取り組んできました。最終的に大学院に進む際に、最も基本的・根源的な対象である素粒子の研究をしたいと思い、駒宮先生の研究室を選んだのです。
修士ではILC計画に参加しました。研究テーマには複数の選択肢があり、選んだのは放射線による検出器のダメージ測定・評価のための研究です。他のテーマは既存のデータを解析するものでしたが、私は自分でデータを取って解析したかったことが理由でした。
次いで博士課程では、CERNのLHCの第2期実験開始と重なったので、新たな発見を期待してATLAS実験に参画しました。LHCの目標の1つは、新物理で理論的に存在が予想されている超対称性粒子の発見です。複数ある理論モデルの1つでは、チャージーノという超対称性粒子が生成された場合、検出器内を10cm程度⾶んでから崩壊することが予想されていました。この様子を捕らえてチャージーノを発見するという研究に取り組んだのです。
CERNには2年ほど長期滞在して、海外の研究者とともに研究を進めました。現地のアマチュアオーケストラでビオラを弾いたのも良い思い出です。残念ながらチャージーノの発見には至りませんでしたが、現在も後輩たちが同じテーマに取り組んでいます。
博士課程を2018年に修了した後は、重力波望遠鏡KAGRAでの研究を選びました。2015年の重力波初検出からまもない時期で、非常に新しい研究分野であることが最大の魅力でした。望遠鏡(干渉計)のキャリブレーション(較正)装置や、雷や地震等による突発的なノイズを解析・判定する仕組みを作ったりしました。
ICEPP時代を振り返ると「自分が大事だと思ったことをきちんとやる」ことの大切さを学んだと思います。分からないことはきちんと勉強する。手を動かさないと理解できない場合には手を動かす。必要な場面では他人としっかりとコミュニケーションをとる。そうしたことを積み重ねていけば、遠く思える目標にも到達できることをICEPPで教えてもらえたと思っています。
2021年4月からは、半導体製造装置メーカーでデータサイエンティストとして、心新たに働きます。
プロフィール
2014年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(駒宮研究室)修士課程修了。18年同博士課程修了。日本学術振興会特別研究員PD(所属は高エネルギー加速器研究機構および国立天文台)を経て、2021年より東京エレクトロン株式会社に勤務。博士(理学)。
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あらゆる手段を使って
新しい理論の姿を見つけたい高エネルギー加速器研究機構(KEK)
素粒子原子核研究所・准教授生出 秀行Hideyuki Oide -
スタートアップ企業で
働くいまも生きているICEPPでの経験京都フュージョニアリング株式会社・
Business Development Dept. マネージャー西村美紀Miki Nishimura -
MEG実験での悪戦苦闘すらも
とても楽しい経験でした矢崎総業株式会社
AI・デジタル室 エンジニア恩田 理奈Rina Onda -
ヒッグス粒子発見に貢献し
その瞬間に立ち会うという幸福名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)
特任准教授吉原 圭亮Keisuke Yoshihara -
設計・測定・解析・理論計算
すべてを自分で行なう楽しみ日本電気株式会社(NEC)
セキュアシステムプラットフォーム研究所 主任山道 智博Tomohiro Yamaji -
自分の貢献やアイデアを活かして
問題解決する喜びは、ICEPPで知った高エネルギー加速器研究機構(KEK)
加速器施設 助教小林 愛音Aine Kobayashi -
「大事だと思ったことをきちんとやる」
その大切さをICEPPで学んだ東京エレクトロン株式会社SDC
AI開発部・サイエンティスト小坂井 千紘Chihiro Kozakai -
素粒子実験で培ったメンタリティで、
AIプロダクトの開発に挑む株式会社ニューラルポケット
取締役CTO(最高技術責任者)佐々木 雄一Yuichi Sasaki -
大学院での学びを
企業で活かす日本電信電話株式会社 (NTT R&D)
サービスエボリューション研究所 研究員大川 真耶Maya Okawa -
「机の上」での実験が、
研究者としての土台になった京都大学大学院理学研究科
日本学術振興会特別研究員(PD)安達 俊介Shunsuke Adachi -
「ヒッグスの次」を
この手で見つけたい東京工業大学理学院物理学系 助教山口 洋平Yohei Yamaguchi