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From alumni

素粒子実験で培ったメンタリティで、
AIプロダクトの開発に挑む

株式会社ニューラルポケット
取締役CTO(最高技術責任者)

Yuichi Sasaki

ICEPPでは修士の時にTabletop実験に取り組み、博士ではATLAS実験に参加して、2012年7月のヒッグス粒子の発見にも立ち会いました。

修士時代のTabletop実験では、ポジトロニウムという電子と陽電子からなる「最小の原子」を研究しました。ポジトロニウムを磁場の中に置き、崩壊時の量子振動の様子から「超微細構造定数」を求めます。その実測値は、理論値と乖離していることが知られており、それを手掛かりにして新たな物理学を発見する糸口を探っていました。実験装置の図面を引き、電子基板を自作して解析を行ない、論文を書く。これらすべてを自分の手で行なえたことは貴重な経験になりました。

博士課程では、進学がLHCの稼働開始のタイミングと重なったこともあり、ATLAS実験に参画しました。最初はLHCで生成が期待されていたマイクロブラックホールの分析をしましたが、途中から超対称性粒子の探索に移りました。超対称性粒子の崩壊時にレプトンが1つ現れる「1レプトンモード」での解析研究がテーマでした。国際チーム内で、誰が最高の解析結果を出せるかを競い合う環境のなか、現在の仕事にも役立つ仮説検証能力を鍛えられたのは大きな財産になっています。

修士・博士で基礎研究をひと通り経験し、次は社会とのつながりを持ちたい、ICEPPで学んだ技術を社会に還流したいと思うようになりました。当時からAI(人工知能)、特にディープラーニングに関心があり、将来はAIで起業することも視野に入れ、まずはマッキンゼーでビジネスの基礎を学ぼうと考えて入社しました。同社では、クライアントのコスト分析やサプライヤーチェーンの最適化などのコンサルタント業務が主な仕事でした。

その後、ディープラーニングに特化したAIベンダーに転職して働いていたころ、マッキンゼー時代の上司に誘われて、2018年6月に現在の会社のCTOの職に就きました。当社はAIを活用し、画像や動画における物体検知、人物認識、種類分別などの多様な製品を開発しています。その祖業は、AIがほとんど使われていなかったファッション分野から始まりました。ディープラーニングでファッショントレンドを解析するサービスの商品化に成功し、そこからAIの適用範囲を広げてきました。

素粒子実験では、技術を駆使して未開の領域を進むことが求められます。これは現職における商品開発と非常に近いと感じています。両者に共通して必要なのは、限りない探究心、何が何でもやり抜くというメンタリティです。それを今も持ち続けられているのは、ICEPPで経験し、学んだことが非常に大きいと実感しています。

プロフィール

2010年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(浅井研究室)修士課程修了。13年同博士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社、AIベンダーを経て18年に株式会社ニューラルポケットに参画。博士(理学)。