大学院生のころからATLAS実験に携わり始め、今もATLAS実験に取り組んでいます。ICEPP在籍中は田中純一先生のもと、ヒッグス粒子が2つの光子に壊れるモードを解析しました。光子のエネルギー解像度を高めたり、光子にフェイクする邪魔者を取り除いたり、光子の検出性能向上に取り組みました。2012年にヒッグス粒子が発見されたときは博士2年、最高のタイミングでATLAS実験に関わることができました。
LHCは現在シャットダウン中で、次のRun3実験に向け、ミューオン(μ粒子)トリガーの開発に携わっています。ATLAS実験では25ナノ秒ごとに陽子同士が衝突し、膨大な数の粒子が出現します。そのすべてを記録するのは、現在の技術では不可能です。そのため、発生事象のなかから興味深い事象を選別してデータを保存する仕組みがトリガーです。ミューオンはさまざまな興味深い事象から発生する粒子です。どういうときにトリガーをかけるか、アルゴリズムを研究しています。「ヒッグスの次も見つけてやろう」と野望に燃えています。
2018年度から久世正弘先生の研究室にお世話になり、ハイパーカミオカンデのコラボレーターにもなっています。スーパーカミオカンデのアップグレード計画で、私はエレクトロニクス周りを担当しています。授業では、ATLASの技術をテーブルトップで再現するような実験も行なっています。
ICEPPに進学したのは、前センター長の駒宮幸男先生のお話に感銘を受けたのが大きな理由です。素粒子物理学は、「宇宙の根本原理は何か」を探る物理学の王道だという趣旨のお話で、先生のお人柄と研究のスケールの大きさに魅力を感じました。実は、修士までは駒宮先生のもとでILCの研究に携わっていました。博士課程に進む2011年、駒宮先生から「今はATLASが良い時期だから、君はそちらに行きなさい」と言われ、ATLASに関わり始めました。ヒッグス発見に当事者として立ち会えたのは、駒宮先生の予言と助言のおかげです。
ICEPPには、先生方はもちろんのこと、学生も個性豊かな才能が集まっています。輪講や日々の研究で、そうした人たちと議論できるのは素晴らしい環境です。才能豊かな人たちのなかで、自分は何で勝負できるのかを考えたことも、今日まで研究者を続けてこられた一因だと感じています。粘り強さを信条に研究に取り組み、ヒッグス発見に貢献できたのは今も大きな自信です。
ICEPPの研究者は、CERNに何名も常駐しています。最前線の情報をすぐに手に入れられるのも、ICEPPの大きな魅力のひとつです。
プロフィール
2011年3月東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(駒宮研究室)修士課程修了。14年3月同博士課程修了。同年4月より大阪大学大学院理学研究科物理学専攻(山中研究室)博士研究員、17年4月より東京工業大学理学院物理学系(陣内研究室)研究員、18年4月より現職。博士(理学)。
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あらゆる手段を使って
新しい理論の姿を見つけたい高エネルギー加速器研究機構(KEK)
素粒子原子核研究所・准教授生出 秀行Hideyuki Oide -
スタートアップ企業で
働くいまも生きているICEPPでの経験京都フュージョニアリング株式会社・
Business Development Dept. マネージャー西村美紀Miki Nishimura -
MEG実験での悪戦苦闘すらも
とても楽しい経験でした矢崎総業株式会社
AI・デジタル室 エンジニア恩田 理奈Rina Onda -
ヒッグス粒子発見に貢献し
その瞬間に立ち会うという幸福名古屋大学素粒子宇宙起源研究所(KMI)
特任准教授吉原 圭亮Keisuke Yoshihara -
設計・測定・解析・理論計算
すべてを自分で行なう楽しみ日本電気株式会社(NEC)
セキュアシステムプラットフォーム研究所 主任山道 智博Tomohiro Yamaji -
自分の貢献やアイデアを活かして
問題解決する喜びは、ICEPPで知った高エネルギー加速器研究機構(KEK)
加速器施設 助教小林 愛音Aine Kobayashi -
「大事だと思ったことをきちんとやる」
その大切さをICEPPで学んだ東京エレクトロン株式会社SDC
AI開発部・サイエンティスト小坂井 千紘Chihiro Kozakai -
素粒子実験で培ったメンタリティで、
AIプロダクトの開発に挑む株式会社ニューラルポケット
取締役CTO(最高技術責任者)佐々木 雄一Yuichi Sasaki -
大学院での学びを
企業で活かす日本電信電話株式会社 (NTT R&D)
サービスエボリューション研究所 研究員大川 真耶Maya Okawa -
「机の上」での実験が、
研究者としての土台になった京都大学大学院理学研究科
日本学術振興会特別研究員(PD)安達 俊介Shunsuke Adachi -
「ヒッグスの次」を
この手で見つけたい東京工業大学理学院物理学系 助教山口 洋平Yohei Yamaguchi